炭の章 山本 愛子

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想像していたよりも鋭利だった傘の先は、すんなりと刺さった割に、引っ張ってもなかなか抜けない。 「うああああああああ!! ああぁああ!!」 この世の終わりのような叫びと共に、男はガクンと膝を折ってうつぶせに倒れる。 男の背中に膝を立てて力一杯傘を抜くと、赤黒い液体がドブッと音を立てて次々と溢れた。 ──ふぅん、血ってこうやって出るのね。あの部分、校正しなきゃ。 ──……どの部分? 一瞬動きを止めた私の足を、男の腕が震えながら掴んだ。 それを私はいとも簡単に振りほどく。 なかなか死なないものだと面倒に思い、私は男をまたいで元いたキッチンまで歩いた。 そして足下に落ちている、血だらけでぐしゃぐしゃの便せんに気付き、拾う。 ──何、これ。この男が持って来たのかしら。 【殺さなければ殺されると悟ってからの冷静な動き、狂った女の華麗な殺人に私は】 続きは、血で読めない。 だが〝狂った女の華麗な殺人〟というフレーズは、妙に心に引っかかるものがあった。 ──どうして気になるの? 考えていると、玄関に転がっている男がピクピクと動き始める。 ──本当に人間ってなかなか死なないのね。あそこも、加筆修正しないと。 ──……ん? 加筆……?  
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