炭の章 山本 愛子

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脳がぎゅうと締め付けられる。      * ──ああ、それにしても喉が渇いた。 なんだかイライラする。なんで私はこんなにも疲れているんだろう。 ミネラルウォーターのストックはあっただろうか。 あの、あの……、私の水、なんだっけ。ああ、思い出せない。 無意識にキッチンへ戻り冷蔵庫の前まで辿り着いた時。 ふと、リビングのローテーブルに無造作に置かれたワープロが目にとまった。 身体が勝手に動き出す。まるで、癖や習慣のように。 あまりにも慣れた動きに若干戸惑いながらも、私はワープロを開く。 電源が入ったままになっていたワープロは、開けた瞬間鈍い光を放ちながら、大量の文字列を表示した。  【女は知っている】 大量に行間を置いて書かれた一行。その短い言葉に気味が悪い程心を掴まれ、画面に釘付けになる。 【骨を断つ時のこの感触を。だけど、沢山の筋や関節が複雑に混在するこの部分は、一筋縄ではいかないようだ。刃を垂直に突き立て、一気に全体重を乗せる。すると、ガン!! と刃物が床にぶつかる激しい音と、ブツリという肉が切れる独特の音が混ざって聞こえ男の踵は、足から切り離された。──七月八日】  
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