炭の章 山本 愛子

13/38
前へ
/312ページ
次へ
まぶたがピクリと痙攣した。 酷く狂気的で残酷な文章のはずなのに、何故か私は興奮している。 【十秒。女はそれ以上の時間をかけない】 それ以降のページは無い。 前ページへスクロールしながら食い入るようにこの不思議な文字列を目で追う。 【爪を剥がす感触は、これまで感じたどれとも違う、不思議な浮遊感すら感じる。──七月八日】 【ようやく取り出した太い骨は美しいカーブを描き、私を魅了する。──七月八日】 まるで日記のようだと思った。 ふいにワープロのディスプレイの右上を見ると、七月八日と日付が表示されている。 つまりこれが日記だとすれば、今日の出来事という事になる。 ──誰の日記なのかしら。 深く興味が湧いた。読み進めるたびに心臓はみるみる鼓動を早めるが、この感情は恐怖でも混乱でもない。 あえて表現するならば、そう、まるで──。 「憧れ……?」  ガダン!! 突然聞こえた物音に激しく不快感を感じながら、膝立ちになり辺りを確認するが何も見えない。 誰もいないはずだ。何の物音だろう。 猟奇的な女性の妄想に陶酔していたのに邪魔をされ、気分はかなり最悪だ。 ワープロの前に座り直し、もう一度陶酔に浸ろうと画面に視線を移す。  
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11473人が本棚に入れています
本棚に追加