餓の章 神山兄弟

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僕たちは、日々何かを失って生きている。 それは、若さであったり時間であったり、目に見えるもの見えないもの、様々だ。 僕と彼にとってそれを当てはめるのであれば、その分類は目に見えないものということになる。 僕たち兄弟は同じ遺伝子を受け継いで生まれてきているはずなのに、こうも違ってしまっているのだから。 兄は、一言でいうならどうしようもない人間だ。 何で問題を起こしたかは知らないが、高校を二年も留年し、今年で二十歳を迎えるというのに、まだ大学にも行けず自由奔放に生きている。 そんな兄に対して落胆と失望で疲れた両親は、僕の高校進学を理由に二人で同じ寮部屋で暮らすようにいった。 父はこれも社会勉強だと言ったが、疲れて影を落とすくたびれた母の顔を見て、自分が体の良いお目付け役にさせられたのだと感じた。 つまり、暴れ馬と同じ柵の中で生活して見張れというものなのだろう。 全寮制の高校で、兄弟であるということから、僕と兄はこうして同じ寮の同じ部屋で過ごすこととなった。 そうして始まった兄との同居生活。 別に何かを期待していたわけではないが、それはたった一週間で破綻する。  
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