1人が本棚に入れています
本棚に追加
“旅に出ます。探さないでください”
居間にあるローテーブルに無造作に置かれた、思春期真っ盛りの悩める少年みたいな書き置き。
もっともこれを書いたのは、40を過ぎたおっさんもといあたしの父親だ。
「旅って……」
かち、かち、と、凧糸で長さを調整した紐を引いて、電気を点けながら。
はあ、とため息をつく。
だだっ広くて古めかしい、昔ながらの一軒家。
この家でひとりは、いまだに心細い。
なんて感情に蓋をして、二人暮らしがひとりになったところで然したる変化はない、と言い聞かせて。
とりあえず夕飯、と、カップ麺にお湯を注いだ。
最初のコメントを投稿しよう!