平穏の終わり

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「でも、あれはただの言い伝えだろう?」 怜は怪訝な顔をして訊き返す。 混乱のあまりすっかり敬語を使うのを忘れている。 しかし神崎は気にする風でもなく、怜の質問に答える。 「いいえ。あれはすべて事実。実際に起こった史実です。」 「は…?」 怜は一瞬言葉を無くす。 「冗談だろ? あれが全部事実だって言うのか?」 「はい。」 「妖魔と人間が戦ったというのも?」 「はい。」 「人間が1度滅びかけたとかいうのも?」 「はい。」 「それを倒したのがごくわずかな人数の人間の一族だったってことまで?」 「はい。」 「………。」 しばしの沈黙の後、 「いやいやいやいや。ない。ありえない。」 だってそれ何てファンタジー? 「いいえ。ありえるのです。」 怜が全力で否定している間にも神崎は冷静に説明する。 「あなたが持っているその霊力。それは妖魔を倒すためのただ一つの力。  それと同時に、その力は『破魔の一族』であることの証。」 「…は!?」 しばらく茫然と聞いていたが、 今聞き逃してはならないことをさらりと言われた気がする。 「ちょっと待て。俺が何だって?」 「あなたは『破魔の一族』の一人です。」 狼狽する怜に神崎は顔色一つ変えずに繰り返す。 「…。」 頼むからこれ以上混乱させないでほしい。 もうこの時点で自分の頭は思考が停止しそうだ。
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