銀の月

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「ハイ では今日の授業はここまでにしまーす。」 終業の合図と共に担任が教室から出ていく。 それと同時に彼、紫堂 怜(しどう れい)は意識を覚醒させた。 「…何だ今の。」 まだ頭に残っているのは、さっき頭の中に浮かんだ見たこともない人々や風景。 「…夢?」 最近疲れがたまっているのだろうか。首を軽く傾げながら怜は席を立った。今日の授業はもう終わりだ。さっさと教室を後にし ようとすると、 「紫堂君!!」 黄色い声に名前を呼ばれる。またか。と若干辟易しつつも怜は後ろを振り向いた。目に入るのは5・6人の女子。 「…なに?」 聞き返しながら向ける眼差しは明らかに迷惑そうである。 「今日帰り一緒にどっか寄らない?」 しかし女子達は彼のそんな様子に気づく様子もない。 「悪いけど俺、用事があるから。」 この断り文句も最早お決まりだ。 「えー。前もそう言って付き合ってくれなかったじゃーん。」 女子達の一人がそう言って口をとがらせる。作ったような猫なで声が癇に障る。だって俺がお前らに付き合う義務はないだろ。と心の中で呟くが、 「俺急ぐから。他の奴を誘ってくれ。」 めんどくさいことは御免だったのでそう言って怜はさっさと教室から出て行った。 本人は全くの無関心なのに、それでも女子からの誘いが絶えない理由は彼の容姿にあった。 切れ長の眼。すらっとした長身。一つに括った真っ黒な長髪。 現に、廊下を歩いている今も女子からの羨望のまなざしや黄色い声は途絶えることがない。 まあ、本人からしてみれば迷惑極まりないことではあるが。 怜は17歳。高校2年生である。
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