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「怜、おかえり。」
「あ。ただいま院長。」
怜が挨拶を返したのは、三十代後半の穏やかな雰囲気を持った男性。
この孤児院の院長である。
「これ、晩御飯の材料。他にも必要なもの買ってきといたから。」
そう言ってスーパーの袋を指さす。
「あぁ、いつもすまないね怜。
でも、君も高校生なんだから、友達と遊びに行ったりしてもいいんだよ?」
院長は穏やかな笑みを浮かべながら申し訳なさそうに言った。
まだ小さな子もいるため、院長が買い物へはなかなか行けないのである。
「いいよ。 みんなと遊んでるほうが落ち着くし。」
気を使っているとかじゃなく、本気でそう思う。
子どもたちの方が学校で媚びをうってくる女子よりも、僻んでくる男子よりもよっぽど共にいて癒される。
生まれてすぐにこの孤児院の前に捨てられていた怜にとって、この孤児院の人たちは大切な家族同然だった。
「よし、じゃあ俺は買ってきたもの置いてくるから、お前らは先に外に行ってろ。
今日はサッカーするって秀(しゅう)と約束してたもんな?」
微笑みながら子供たちの内の一人に言うと、秀と呼ばれた男の子は
ぱあっと顔を輝かせた。
「うん!! 怜兄ちゃんも早く来てね!」
子供たちはボールを片手に院の広場に走っていく。
それを見送った怜は、荷物を置きに院内に入って行った。
これが、紫堂怜の日常である。
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