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「ヒューゲル様、お次はサクヤの作ったカレーを召し上がってください」
「サクヤ……」
いまいち気分が乗っていない声色から察するに、やはりいくら青年でも気が進まないようだ。チラッと盗み見てみると、彼の頬をつぅ~っと一筋だけではない滴が伝っていた。つい先ほど食べた“(超)激辛かに玉丼”の副作用などではない、おそらくは冷や汗だろうと思われる。どうやら大丈夫ではないらしい。見ている限りではただ単に苦手……というわけでもなさそうだ。
始めこそ盗み見るつもりだったのがいつの間にか手を止めてじっくりと観察するように見入ってしまっていたリュミエールは、彼の新たな一面を知ることができたはいいが喜んでいいのか分からず、またもモヤモヤしたまま作業に戻った。
「はいこれ。冷めてもおいしいとは思うけど、食べる時は1度温め直してからの方がいいかもしれないわよ」
そうして箱皿に詰めた“(超)激辛かに玉丼”を差し出すと、すかさず暗黒魔王のような視線が横から放たれてきた。
しかしリュミエールは怯まない。これも、それなりにいろいろ苦労を重ねて鍛練を積んできた賜(?)というものだろうか。
「すまない、助かる。
サクヤ、帰るぞ」
「は、はい!!」
サクヤと呼ばれた女性があわててお鍋を取りにキッチンへ飛んでいくと、黒髪の青年がリュミエールの耳元に顔を近づけてきた。
「な、なに?」
「すまないが、しばらくレヴィを頼む」
「えっ?」
何を言われたのかリュミエールが脳内で噛み砕いている間にも、青年は今度はシャワールームへと歩いていった。
「レヴィ、オッサンとミロスからの伝言だ。時間がある時で構わないから、お前と話がしたいそうだ」
『よけいなお世話です』
「そう言わずに2人の話を聞くだけでもしたらどうなんだ」
『それがよけいなお世話だと言っているんです。
いいから出ていくのなら早く出ていってください。おかしな臭いをこれ以上この部屋に流さないで欲しいので』
「……分かった。
だが、伝言はたしかに伝えたからな」
そうしてヒューゲルとサクヤは部屋を出ていこうとしたが、「待ってください」と浴室の扉が開いてレヴィが顔を出してきた。
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