468人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたんだレヴィ、まだ何かあるのか?」
「そ、その……」
この場では言いにくいことなのか、レヴィは言葉を濁そうとした。
「なんだレヴィ、そんなに言い出し辛いなら、場所を移すか?」
「いえ、そこまでしてもらう必要もありませんので」
「ならばさっさと言ってくれ」
「薬を、処方していただけないかと」
「なんだ、そんなことか。
それで、どんな薬がいるんだ?」
「理由は訊かないんですね」
「医療士というのは本来そういうものだと思っているんだがな」
「そうですか。ならば自分も次からは依頼だけをするようにします」
「そうしてくれ。
それで、処方してほしい薬というのは?」
「ビクリスを少々お願いしたいのですが」
「なっ……!」
咄嗟に言い返そうとしたヒューゲルだったが、今しがた自分が発した言葉を思い返して口を噤んだ。
“ビクリス”というのは痺れ薬の1つで、主に筋肉痛や関節痛などの内側からくる痛みに対して効果を発揮する薬である。しかしその使い方が厄介で、服用したその日は全く身動きが取れなくなってしまう確率が高いのだ。
その“副作用”のおかげでビクリスは、医療士の間では“疫病薬”とさえ揶揄されている。
しかし、薬ではあるが毒とも思えるそんな代物を、レヴィはご所望のようだ。
「………………」
ヒューゲルはレヴィを知っている。決して多くを語れるというわけではないが、知り合いであるということは紛れもない事実だ。
逆を言えば、レヴィもまたヒューゲルを知っているということにもなる。
「……分かった。調合しておく」
それじゃあ、またな。会話の途中から睨まれていたことを知ってか知らずかそんな形で終わらせると、ヒューゲルはまだ拗ねたままのサクヤを引き連れて部屋を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!