入寮と小さな事件と森の中

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   ‡ ‡ 「やれやれ、ようやく帰りましたか」  そう言いながら浴室から出てきたレヴィは、入る前と同じ恰好をしていた。どうやら『シャワールームにいますので』というのはただの口実で、実際は本当に気分が悪くなっただけのようだ。 「レヴィ、本当に大丈夫?」 「はい、ご心配なく。……ですが、なぜこの異臭が残っているのでしょうか」 「まあ、1度付いちゃったらなかなか取れないだろうね、この手の臭いは……」  我慢しきれず鼻を摘まむリュミエールとレヴィ。  2人が見る先には、狼人族の青年が食べるどころかスプーンにすらいっさい手をつけることがなく、結局テーブルの上に文字通り手付かずのまま残されていったサクヤが作った手料理。“手料理”と格付けすることも憚られそうな“ゲテモノ”が、まるっきり他人事のようにそこにいた。 「……どうする?」 「どうすると言われましても……、処理……するしかありませんよね……」  レヴィの言にも覇気がなくなっていた。  しかし、その“処理法”がまた問題だったりする。  ただ普通に残飯処理するだけでは後々自然の生態系にまで悪影響を及ぼしかねない。だが、このままではいずれ自分たちもその被害者となってしまう。  リュミエールはゴクッと生唾を飲み込んだ。 「……レヴィ、どうやら意を決するしかないみたいよ」 「ま、まさかリミル、これを食べるおつもりですか(・・・・・・・・・・・・・)……?」  レヴィが若干どころではなく引き気味なのも分かる。あの青年でさえ手を出すことをためらったほどの代物だ。しかし…… (どうにかして処理しないといけないのよね……) 「……いただきます」 「い、いただきます……」  リュミエールにやや遅れてレヴィも食事前の挨拶をし、ゴクッと唾を呑み込んだ2人は強く目を瞑って一口、というより0.5口大くらいの量を同時に口に運び、そして 「「っっっっっ!!!!!?????」」  2人揃って流し台まで走っていき、シンクロしたように頭を下げることに。  まさかこれほどまでにひどい、いや、ひどすぎるものがこの世に存在していようとは……。  そもそも、あれを“料理”と呼んでもいいのか、そこから疑いたくなる、むしろ疑うことが当然のように思える、そんなものだった。
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