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「とにかく、彼は味覚がおかしいと思います。どうしてあんな胃袋を壊してしまいかねない程の危険物を口にできるのか、自分には理解できませんので。
そもそも、“辛い”などという味覚概念そのものがこの世には必要ないと思います。誰なのですか、そのようなものを最初に考えた馬鹿野郎は。
責任者がいるのなら捕まえて懲らしめてやりたいぐらいですので」
「懲らしめてやりたいって……」
同じ居住空間で過ごした時間はまだ短いが、“冷静”とか“落ち着いている”という第一印象がはたして合っているのか、リュミエールは分からなくなってきた。
もしかして──
「レヴィって“辛いもの”が苦手?」
「苦手ではありません、“辛いもの”は見るのも嫌なだけですので」
「……それを世間では“苦手”って言うと思うんだけど」
リュミエールの脳内メモ帳、“レヴィに対する印象”の欄に“少し天然さん”の文字が加えられた。
「それだけではありません。
彼には自傷癖がありますので」
「自傷癖? それって、自分で自分を傷つけるっていう?」
「文字をそのまま取るのであればリミルが仰った意味で間違いありません。
ですが、彼の場合は“自ら傷つきに行く”という意味ですので」
「えっと……、それって同じことなんじゃないの?」
「すみません、少し難しい言い回しをしてしまいました」
「いやいや、少しというより全くと言っていいほどに分かりにくいんだけど……」
「言い方を替えます。
彼の場合、“自分で自分を傷つける”のではなく、“誰かを守るために代わりにその痛みや傷を負う”のです」
「それって、つまり……?」
はい、と一呼吸置いてから、レヴィはこう結論付けた。
「ヒューゲルは重度のお人好しです」
まあ、そうだろうとはリュミエールもなんとなく予想をしていた。現に自分も何度となく助けられているのだ。そんな人を複数回にわたって殴り飛ばすとは……。
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