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「だが、次からは気をつけなよ。【女子寮】はある意味戦場のようなものだからな。
先程君が体験したような追いかけっこだけでは済まされないぞ」
「なぜ追いかけ回されたのか、個人的に知りたいんだが」
「ミロス先生やホーウィル先生からは忠告を受けなかったのか?
ちなみにだが、君は何期生だ?」
「今年入学するヒューゲル=ヒュライハントだ」
「ご丁寧にどうも。あたいはライラック=ヴォークス。
話を戻すが、昔、今となっては噂というかその手の類なんだが、“覗き魔”という輩がいたそうだ。
そいつは毎度のように【女子寮】を覗き見していてな、たまたま通りかかった女子生徒たちにコテンパンに袋叩きにされたそうだ。
そんなことがあってか、それ以来【女子寮】は“男子禁制”となっているんだ。
今はそこまで徹底はしていないが、用心するに越したことはないからな」
「分かった。心得ておく。
こちらこそ済まなかったな、余計な仕事をさせてしまって」
「ん? それこそ何のことだ?」
「お前は“バリエール”とかいう組織の一員じゃないのか? その服装といい喋り方といい、実態を知らないがそういう組織ではないのか?」
言うと、ライラックはなるほど合点がいったように両手を合わせた。
「まあ、新入生では仕方あるまいな。
たしかに君の見立て通り、あたいは【生徒会】の役員だ。だが、あいにくこの喋り方は昔からでね、直そうと思ってもおいそれと簡単に直せるものではないんだ。すまない」
「いや、謝ることはない。俺が単に気になっただけだ。
それじゃあな」
「ああ」
【男子学生寮】に戻る道すがら、ふと空を見上げてみれば、きれいな星たちが瞬いていた。
「懐かしいな……」
思い出してみればもう10年以上経つのか、まだ“無邪気”という表現が似合いそうな幼い過去。
あの時は4人でよく屋根に上ってこうして見上げていた。
──今となっては、そのうちの1人以外はどこで何をしているのかが分からなくなっているが。
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