入寮と小さな事件と森の中

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「ヒューゲル、考え事も結構ですが、周りが見えなくなるのはあなたの悪い癖ですよ」  気づけば、リュミエールとサクヤの姿が見えなくなっていた。 「2人はどうした?」 「お二人とも、聞こえてきた声がお目当てのギルドだったのかを確かめに走っていってしまわれましたが」 「お前は行かなくてよかったのか?」 「愚問ですね。自分は特にこれといってやってみたいことというのが見つかっていませんので」 「それ、両手を腰に当てて自慢気に言う程のことじゃないだろ」  今日のメインイベントというのは、【新入生歓迎の儀】とその後に行われた【属性検査(アンスペクション)】、そしてミロスの発言から察するに恒例行事の類であろう【新入生への部活(ギルド)勧誘活動】の3つだけだったようだが、特に勧誘活動は時間が長く設けられているのか空が茜色になるまで続けられていた。  ヒューゲルも何度か誘いの言葉を掛けられたが、丁重かどうかという丁寧さの度合いはともかくきっぱりと断った。  レヴィにも何度か誘いの言葉が投げ掛けられているが、それらを断るのも一緒に歩いていたヒューゲルの役割だった。 「どうして止めるのですか。それに、自分は助けを必要としていませんので」 「俺は別にお前を助けようとしていたわけじゃない。あのままだと先輩が泣いていただろうが」  決して“暴力沙汰”に発展したということはないのだが、レヴィの場合はそれが“(言葉による)暴力”で相手を傷つけてしまいかねないと思いヒューゲルは口を挟んだに過ぎない。  そんなこんなありながら歩くことしばし。リュミエールとサクヤも同じように勧誘されており、数人の男女に囲まれていた。
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