入寮と小さな事件と森の中

98/107
前へ
/366ページ
次へ
「それでは話を戻しますが、ヴェル、貴方こそヒューゲル様の何なのですか? 妙なところにこだわっているように感じましたが」 「あら、あなたってばただの天然さんかと思っていたのだけれど、意外と鋭いのね。  ええそうよ、私はあの青年君の知り合いよ。知り合いとはいっても、あなたたちのような間柄ではないけれど」  また赤面するのかと思ったが、サクヤの表情はそのままだった。  それはともかく、少なくとも、青年君(かれ)が自分のことを知っているということはないだろう。かくいうヴェルも、彼を知っているとはいえ名前を小耳に挟んだ程度に過ぎないのだが。 (やっぱり、本人に直接訊ねるのが一番なのかしらね……)  そうと決まれば思い立ったが吉日。ヴェルは立ち上がり、部屋の玄関へと向かった。 「どこかお出かけですか?」 「ええ、急ぎというわけではないのだけれど、少しだけ用事を思い出したから」 「もう遅いですよ? 急ぎの用事でないのであれば明日でも構わないのではありませんか?」 「たしかにそうね。あなたの言っていることは正しいわ」  でもね、とサクヤに背を向けたままヴェルは続ける。 「何であれ、課題は早めにクリアしておくものよ」 「???」  ハテナマークが3つ程頭の上でワイパーのような動きをしているサクヤに「それじゃあ、おやすみなさい」と言い捨てるように投げ掛けて無理矢理話を切り上げると、ヴェルは外へと出ていった。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加