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「それじゃあ」
【学院島港】から【ドランヴァリエ竜騎士学院】に向かって伸びる坂道、その道を下ってしばらくしたところで右側の獣道のような道に逸れ、【学生寮】からもある程度見えなくなるあたりにあるこぢんまりとした休息場みたいな場所──焚き火の跡が残っている場所──に着くなり、先を歩いていた水妖精族の女性が足を止めて振り向いた。
焚き火の燃えカスを挟んでヒューゲルと向かい合う形になる。
なんとなくついてきてしまったが、気が向いたからなどという理由だけではなく、単に彼女の話を断る理由もなかったからだ。
それに実際は、彼女の言う“話”とやらの内容が気になっていたりもする(当然のことながら、そこに恋愛要素は一切含まれない)。
まあ、こんな夜も更けている時間帯に人気のなさそうな場所に連れ出してするような話だ。その内容が明るいはずがない。
果たしてヒューゲルの予想通り、話の内容は決して明るいと言えるものではなかった。
背負っていたのはそのためだったのだろう、女性が素人目に見ても使い勝手の良さそうな長槍を構えた。
そうして彼女は、右半身を半歩後ろに引く半身の姿勢を取る。
「あなたには悪いのかもしれないけれど」
女性はさらに身を低く屈め、
「少し試させてもらうわ」
一言低く告げるなり、有無を言わさず鋭く突き込んできた。
構える間もなく間合いを詰めてくる相手に、ヒューゲルは辟易したように(やれやれ……)と思いながら身を捩ってこれを躱す。
しかし、これだけで収まる女性の攻撃ではなかった。
右肩から左脇腹を目掛けての袈裟斬り、さらにそこから斬り上げや斬り下ろし、横薙ぎなど多彩な技を織り交ぜた連撃で畳み掛けてきた。それも、躱すことも防ぐことも難しそうな絶妙な急所、いわゆる死角を的確に突いてくる。
それでも、ヒューゲルが多少の無理をしてでも躱すことができたのは、偏に日頃の鍛錬のおかげだろうか。
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