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「少し試させてもらうわ」
彼女は確かにそう言った。攻撃にもその意図は感じられる。だが、その矛先を向けられる理由が、ヒューゲルには分からなかった。
あの“謎野郎”と同じか、それとも別のところから来る彼女なりの理由か。
ヒューゲルはひたすら回避行動に徹するが、それでも徐々にペースを握られてしまい、ついには完全には躱すことができず長槍に服と一緒に肌を抉られてしまった。
血飛沫が若干量飛び散る。
だが、その現象に2人が動揺するはずもなく、戦闘は続行。
「ねぇ、いい加減武器を手にしてくれないかしら。このままではあなたを殺してしまいかねないわ」
「言っていることとやっていることが滅茶苦茶だな。
お前こそいったい何の真似だ」
「まだ分からないの」
「何のことだ。俺には身に覚えがないんだが。
ひょっとして、知らないところで何かしてしまっていたのか?」
訊ねると、女性は一旦攻撃に手を止めて長槍を構え直した。
不意に周囲の木々がざわめき、一瞬2人は意識をそちらに持っていかれてしまう。
そんなことがあり、戻された落ち着いた印象を与える眼差しは、今でははっきりと殺意が込められているように感じられた。
「してしまったのではなくて」
休息はわずか1瞬(約1分)にも満たず、長槍の切っ先が再びヒューゲルに向けられた。
「これからするつもりの間違いではなくて!?」
またしても有無を言わさず、攻撃が再開された。
「蒼龍槍瀑布!!」
掛け声とともに鋭い槍の閃きが銃弾のように何連発も放たれる。
「チッ……」
しかし、苦虫を噛み潰しでもしたかのような表情をしたのはヒューゲルだけではなく、女性も同じだった。舌打ちのようなため息が両者の口から漏れた。
夥しいとまではいかないまでもそれに近いぐらいの長槍の突撃を、なんとか躱していくが、さすがにこれにはヒューゲルも腰に差した二振りの剣を抜いて対応。
だが、長槍にぶつけてもいなす程度の効果しか得られず、やがて長槍の突撃に肌を抉られてしまう。
しかし、ヒューゲルは地に伏すことも地面に膝をつくこともしなかった。
対する女性の槍撃も、止むことはない。
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