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「もうそろそろいい加減諦めたら? こんなことをいつまでも続けていたくはないのだけれど。続けていても無駄な時間を過ごすだけだし、あなたが一方的に傷つくだけだと思うのだけれど」
それならば何故こんなことを……と思ったヒューゲルだったが、それと同時に引っ掛かり──会話の少しの食い違いを感じ取った。
しかし、会話を続けようにもこのままでは厳しい状況だ。
「ふぅ……」と肩の力を抜くように息を吐き出すと、ヒューゲルの体が一瞬(この場合は“1秒もないくらい”という意味)だがブレた。
「絶の三、百華猟嵐」
無数とも思える夥しい数の長槍の攻撃に対抗してヒューゲルも両手に構えた双剣を目にも留まらない程の速度で振り回し、すぐに手元だけでなく彼の全身も煙に巻かれたかのように見えなくなってしまった。
金属同士がぶつかり合い弾けるような音が夜の帳の静寂の中で甲高く響き渡る。
最終的に、ヒューゲルの2本の剣の先は女性の首筋数センチのところに当てられ、女性の長槍の先もまた、ヒューゲルの首筋近くに突き当てられた。
「話があると言っていたが、これはいったいどういうことだ。納得のできる説明はあるんだろうな」
「あなたこそ、人を疑う前に自分の行いを省みたらどうなの? いい加減話してもらえないかしら」
「それは俺のセリフだ」
「あら、あなたって実は俺っ娘だったの」
「なにを訳の分からないことを……。お前の真意はどこにあるんだ」
「言ったでしょ、少し試させてもらうって」
長槍を背中に背負い直す女性を訝りながら、しかしヒューゲルも構えを解いた。
「それは建前というやつじゃないのか。本音はなんだ」
「その様子だと、どうやら本当に何も知らないみたいね」
「どういうことだ」
感じていた会話の食い違いは、どうやらそこから来ていたようだ。
しかし、口だけで詰め寄っても、今までの勢いはどこへやら、水妖精族の女性は気まずそうに視線を宙に彷徨わせるだけだった。
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