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「知らないのなら知らないで、むしろその方がいいかもしれないわね。
特に、あなたの場合は」
「ますます分からないな。もう1度訊くが、どういうことだ?」
「本当に繰り返したわね……。
言葉通りに受け取ってもらって結構よ。私の個人的な意見だけれど、あなたの場合は知らない方があなたのためにもいいと思うわ」
「それは俺自身で決める。お前にとやかく言われたくはない」
「ふ~ん、まあ、それならそれでも構わないのだけれど」
そこで一旦言葉を切って間を取り、女性は「それはそれとして」と別の話題を振ってきた。
「あんな約束をして構わなかったのかしら?」
「“あんな約束”というのは?」
「サクヤのことよ。
あなた、彼女の手料理を食べる約束をしていたじゃない。
別に心配するわけではないのだけれど、少なくとも食べられるものではないのでなくて?」
「それなら大丈夫だ……たぶん……おそらく……きっと……」
「あなたに似合わない程歯切れが悪いわね……。
大丈夫とは言うけれど、実際のところあれにはいったいどれだけの安全な要素が含まれているのかしら」
「軽く見積もって100回に多くとも10回完食できればいい方だろうな」
「それは結構な難題ね……(食べることができた“奇跡の料理”というものを見てみたいわ……)」
「今までは20回に2回の確率だったんだが、これからどうなることやら……」
「………………」
「急に黙ってどうした」
「……何でもないわ」
“奇跡の料理”はもう既に幻と化しているようだ。それならば、いっそのことこの青年の腹の中を覗いた方が早いのだろうかと一瞬(この場合も“1秒もないくらい”という意味)でも考えてしまったヴェルだった。
「話は終わりよ」
水妖精族の女性はそう言ったが、ヒューゲルは踵を返さず、代わりに1つ息を吐き出した。
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