入寮と小さな事件と森の中

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「話が進まないので進めます。  詰まるところ、あなたは何をしに来たのですか」 「何をしにって、そうね……」  一拍置くように考えてから、ヴェルは答えた。 「“あなたと同じ”と、ここではそう答えておくわ」 「とても協力要請だけが目的だとは思えないのですが──ちょっと待ってください、どうして背を向けるのですか」 「どうしてって、話が終わったから」 「どこをどう取ったらそうなるのですか」 「どこをどう取っても終わりじゃないの。交渉は決裂してしまったけれど、私はあなたの質問に答えたのだから。  あなたが協力要請を受けてくれないのなら、他の人にお願いするしかないじゃない。今は時間が惜しいのよ」 「それじゃあお先に」と歩き出すヴェルの行動に慌てたレイヴィアは、「ま、待ってください!!」と先回りして彼女を引き留めた。 「なに? まだ何かあるのかしら?」 「まさかヒューゲルに……、彼に言うつもりですか!?」 「いけない? 彼なら引き受けてくれそうだけれど」  その発言を受け、レイヴィアは今度ははっきりとしたため息を漏らした。 (ヒューゲルのことですから、もし仮に自分が引き受けたとしてもいずれは首を突っ込んでくるでしょうし、ですが彼だけに関わらせるわけにも……)  レイヴィアは頭を抱え、脳内で悶えた。  そしてその結果── 「……分かりました。引き受けます」  ──諦めた。 「そう」  しかし、引き受けたというのにヴェルの反応はあまりにそっけないものだった。 「へっくし」  冷たい夜風に木々の葉がざわめき、ヴェルは小さくクシャミをして体を震わせた。 「それはそれとして、私はともかく青年君はあなたの味方よ。それだけは間違えないでちょうだい」  改めて「それじゃあ、おやすみなさい」と言って去っていくヴェルの後ろ姿を見ながら、レイヴィアは小さくつぶやいた。 「わざわざ言われるまでもありませんよ。そんなことは自分も分かっていますので」  ──もっとも、彼が自分だけの味方でないことも(・・・・・・・・・・・・・・・)理解している(・・・・・・)。  ──なぜなら、彼は困っている人たち全員の(・・・・・・・・・・・・)味方なのだから(・・・・・・・)。  それから少し自分の中だけで散歩と称した考え事をしながら、レイヴィアも【学生寮】へと引き返していった。
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