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01
水妖精族の女性と少々込み入った会話をした翌朝。
つまりは【ドランヴァリエ竜騎士学院】で過ごす最初の朝。
「………………」
ヒューゲルは、この日も起床時にしっかりと汗を掻いていた。
黒色を中心に一部紫色をした鱗の飛竜が、1人の少年を背中に乗せて空を飛んでいた次の瞬間、真っ逆さまに落ちていく夢。
今朝も今朝とて、変わらず同じ場面でバチィッと暗闇の中で突然光を浴びたかのように目が覚めた。目が覚めてしまった。
あれからもう何度も経験しているため、あの少年が自分自身であることにはとっくの昔に気付いている。しかしながら、それでもまだ、肉体的にも精神的にもあの夢には慣れない。忘れてはいけなければ忘れるわけにもいかないのだが、だからといって受け入れられるわけでもないこともまた、事実であったりする。
さらには、今朝はそれだけではない。
昨晩の水妖精族の女性と一戦交えたことで治りかけていた傷が再び開いてしまったようで、そのうえそれをそのままに寝てしまったものだから寝汗が傷痕に沁みる沁みる。おまけにシャツも張りついてしまい、おかげで日課となっていた朝シャワーも苦痛でしかなかった。
それでも、顔を顰めながらにでも日課を済ませると、気休めにしかならないだろうと思いながら湿布薬を2、3枚傷に当てがる。その上から包帯で固定すれば治療は終了。あとはいつも通り暗色系統の服を着こなせばいつものヒューゲルになる。
その後トーストなどで軽い朝食を済ませたが、それでもまだ時刻は黎明期。起床時間が早い癖も抜けていないようで、始業までもまだまだ時間に余裕があった。
そのため、昨晩のうちに採取できた薬草を使って依頼を済ませることにした。
といっても、癖があるビクリスでも素材の分量を間違えなければそんなに時間を取られるものではない。
故に、ものの10瞬(約10分)足らずで薬が完成してしまい、再び手持ち無沙汰になってしまった。
そこで当初の予定通り剣を振ろうかと【男子学生寮】を出ると、
「ようやく来ましたか。今朝は少し遅かったですね」
すぐのところでレヴィがまるで「自分は今不機嫌です」とでも言わんばかりに壁にもたれて腕組みをしていた。
それも待っていたのは彼女だけではなく、どういうつもりなのかリュミエールやサクヤも一緒だった。
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