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「……っ」
シャワーの水が傷口を舐め、ヒューゲルは顔を顰めた。自己嫌悪ではないが、やはり無茶だったのかと少しだけ自分で自分を呪ってみる。
自分の中で無茶をしているといった感覚はないのだが、しかしそれでも他人から見たら少なからず無茶をしているように見えるのだろうか。それとも、何かを心のどこかで焦っていたのだろうか。いや、実際問題、心のどこかでというよりももはや全身で焦りを表現しているのかもしれない。他人がどう感じているのかは分からないが、少なくとも自分の中ではそんな風に感じている。
(………………)
本当に、自分は何をそんなに焦っているのだろうか。
功績や実績を残そうなどという訳の分からない理想を求めているわけではない。
そんなことをしたところでどうにもならないだろうことは、もう想像できている。父親の生死が判明したところで、生きていたら良かった、死んでいたならばそうかと納得して終わりのような淡白な反応しかできない。目の前で人が死ぬ光景を2度も見ているのだが、やはりその程度の感想しか抱けない。
それでも、やはり誰かが目の前で傷つく光景は見たくないと思ってしまう。
矛盾しているだろうか。
だがそれがヒューゲルの本心でもあるわけで、それ故に周りからしてみれば無茶や無謀の度合いが少しなどという言葉の範疇を大きく逸脱しているように見えるのかもしれない。
しかし、もうそれは仕方のないことなのだとヒューゲルは自分の中で割り切っていた。もはや、これは付き物にして憑き物──自分に課せられた宿命ともいうべき運命だとして受け入れて、これから先も付き合っていく必要性がある。そんな気もしている。
しばらく滝行のようにシャワーに打たれると、ヒューゲルは今一度湿布薬を貼り直してその上から包帯を巻き直して、それからジャケットの袖とスラックスの裾に手足を通した。
とにもかくにも、前に進まねば何も始まらない。
さあ、今日から調査開始だ。
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