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気分がすっきり……したのかは正直自分でも分からないまま改めて部屋を出ると、時を同じくして隣の部屋からも人が出てきた。
燃え盛る焔を想わせる真っ赤なツンツン髪に同じ色の瞳。【学院島】に乗り込む船で一緒になった──あの火妖精族の青年だった。
しかしながら、挨拶を交わす間もなく、ヒューゲルを横目で睨むように見るなり紅髪の青年は足早に去っていってしまった。
(俺、あいつに何かしたか……?)
訳が分からなかったが、ヒューゲルは見てしまった。
──彼の額に貼られた絆創膏を。
もし仮に彼があの謎野郎(?)だったとしても、あの傷をつけたのは自分ではないのだが、彼からしたらそんなことは関係ないのかもしれない。
それに、もしもその予想が当たっていたとしても、何を原動力にして自分を襲ってきたのだろうか。そもそも、襲われる理由が自分の中に見当たらない。まだあの青年が謎野郎(?)と同一人物だと断定したわけではないのだが、それ故にいろいろと謎だ。
しかし、今思い返してみると、睨みつけるあの鋭い視線は、森でやり合った時の謎野郎(?)にどことなく似ている……ような気がする。……現段階ではそのことに関しても何の確証を得られていないのだが、なんとなくそんな気がする。
【学院島】に来て初めて言葉を交わしたのが、【レイジュヌ領国】国内において極々一般的とされるファッションの火妖精族の青年、それともう1人、彼の付き人のような同じ服装の水妖精族の少女だった。
しかし、彼らを不愉快にさせるようなことは一切していない。そう、自分では思っている。事実、【学院島】に着いてからだ。あの青年が自分を目の上のたんこぶのように見始めたのは。
それはつまり、現在ではなく、あの紅髪の青年の過去に自分が何かしらの形で関わっていると見ていいのだろうか。
だがしかし、やはり分からない。分からないことだらけだ。
(………………)
ヒューゲルはピシャッと自分で自分の両頬を叩いた。
とりあえず、そのことは一旦置いておくとしよう。今日からまた鍛練を積む毎日が始まるのだから。
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