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「うんうん、やっぱこんぐらいはせんといかんよな」
経験者……なのかどうかはともかくノイルはそう語りながら何度かうなずき、果ては両手でカメラワークのような仕草をするが、被対象者の心境はそれどころではなかった。
「ちょ、ちょっとノイル!?いきなり何するのよ!!」
「何ってリュミやん、こうしたかったんとちゃうんか?」
「べ、別にあたしはそんなんじゃ……」
抗議をするリュミエールだったが、その甲斐もむなしく
「ほな、ウチは先に行っとるからな。あとでちゃんと報告してや」
「ちょ、ちょっと!!」
言うが早いか、ノイルは小走りぎみに駆けて行ってしまった。
「おい」
ヒューゲルが声を掛けると、リュミエールはビクッと体を震わせた。しかし、振り向いた顔はふてくされたいつもの(?)彼女だった。
それでも、感情をコントロールするまでには至らなかったようで、ヒューゲルの腕に自分の腕を絡ませたまま、
「……な、なによ」
「この状況の説明を求める」
「へっ?」
たちまち頬だけでなく顔全体を真っ赤に染めるリュミエール。
「『へっ?』じゃないだろ、何か意図があって起こした行動じゃないのか」
「そ、それは……」と今度は顔を赤らめたまま視線をそらすリュミエール。
それからしばらく待っていると、意を決したらしくリュミエールはヒューゲルをまっすぐに見据えた。そしてなぜか超自然な動きで右腕をゆっくりとテイクバックしていく。
(この状況はまさか……!?)と思ったヒューゲルだったが、時既に遅し。
「あんたには関係ない!!」
腰を使った渾身の右ストレートを受けて派手に吹っ飛ぶヒューゲルを「ふんっ」と一瞥し、リュミエールも大股で歩いていってしまった。
しかし、殴り飛ばされたヒューゲルもヒューゲルで、意に介するということもなくおもむろに立ち上がって砂埃を払い落とし、坂を歩いて上っていく。
「俺がいったい何をしたって言うんだ……」
さすがに痛かったのだろう、頬を擦りながら。だが、その言葉からも分かる通り、彼は己がした行為について理解できていないようだ(というより、今回の件に関しては彼は本当に被害者だと思われるのだが)。
しかし、“一難去ってまた一難”という言葉があるように、本日の“難”はまだ続く。
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