戦闘鍛錬と小競り合いと心の靄

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  「ほらほら、急いで急いで! もうすぐ始業の時間だよ!!」 【男子学生寮】と【女子学生寮】に挟まれた道をさらにもう少し行った先に敷地を構える、【ドランヴァリエ竜騎士学院】。  その門の付近で、背中から“羽”でも“翼”でもない、言うなれば“翅”といったような代物が生えている翠髪の女性が、両手をメガホンの形にして大きな声を出していた。  その両脇を、様々な種族の生徒・教師たちが1人乃至数人で談笑したりしながら通り過ぎていく。 「もうすぐ鐘が鳴っちゃうよ!」  さらに大声で続けられた時、ヒューゲルもリュミエールたちに追いつく形で門に到着。 「おはよう」 「おはようございます」と返すサクヤやリュミエールに続いて頭を下げるレイヴィア。しかし、翠髪の女性は無視するかのように彼女たちの後ろのヒューゲルに近づいてきた。  そして耳元で小さく囁きかける。 「ヒューゲル君も(・・・・・・・)いろいろと大変そうだね(・・・・・・・・・・・)」 「何の話だ」  女性がヒューゲルに近づいていくと他3人が瞬間的に不機嫌になるが、幸か不幸かヒューゲルの視界には入らなかった。 「まあいいや。また今度話す機会があるだろうし、話はその時で。  ほらほら、急がないともうす──」  キーンコーンカーンコーン……  単なる金属音ではなく、どちらかといえば教会にある鐘のように厳粛な音があたりに響いた。  ──と。  カツッカツッカツッ。そんな小気味いいとはいえない、むしろ小汚いとさえ思えるかもしれない足音を踵を地面に引きずることで響かせながら、1人の男が歩いてきた。  燕尾服やタキシードといった正装ではないが、スーツのように少しだけ荘厳さ加減を醸し出している服装。ただ、その男とその服装は何となくだが不釣り合いのような気がして、違和感を覚える──というより、どことなく不気味な雰囲気を感じる。  さらには、よほどの傷を負っているのか左目を眼帯で覆っているが、眼帯からは傷跡らしき線が顔を覗かせていて、それがより一層不気味さ加減を引き上げている。
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