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「お前たち、何をしている」
バスにほど近いテノールで掛けられた獣耳獣尾男性のオジサン風な声に、“翅”を生やした女性──クロウィルは(またこれですか……)とため息。
「完全登校時刻は過ぎたはずだが」
「オリウェル先生、彼らは僕が引き留めてしまったので遅刻では」
「そんなことはどうでもいい」
本当にどうでもいいことだったらしく、クロウィルの言葉を遮ったオリウェルと呼ばれた男は嵌めていた手袋をアイアングリーヴへと武装変換させながらヒューゲルに接近。
「用があるのはこいつだ」
そのまま殴りかかるが、その前に大鎌に阻まれてしまう。
「どこのどなたかは存じませんが、出てくるなりいきなり殴りかかるとは何たる狼藉。この方に何か恨みでもおありなのですか」
サクヤが睨みを利かせるも、相手にはさして効果はなかったようで、
「悪魔の遣いは黙っていろ」
逆にオリウェルの一言にサクヤがビクッと体を震わせてしまう。
「サクヤ、退いていろ」
ヒューゲルが両腰に下げた双剣の柄に手をやりながら前に出ていったが、しかし、獣人族の男には反対に構えていた両拳を下げて背を向けられてしまう。アイアングリーヴもいつの間にか元の手袋に戻っていた。
「何の真似だ」
「興が冷めた。今回は見逃してやる」
言って去っていく男性を見ながら思わず目をパチクリさせてしまったリュミエールは、隣にいた先輩に問いかけた。
「何なんですか、あれ……」
「さあ……」
訊ねられても、クロウィルは両手を肩の辺りまで上げて軽く肩も竦め、首を傾げるのだった。実際問題、オリウェルが誰かに突っかかっていくところを見たのは、フレイドル以外でまだ2度目であり、それを除いたとしても、あの男性は謎というか分からないことが多すぎる。
「それでは」
と、残る1人といっては失礼にあたるかもしれないが氷妖精族の少女がこの場を締め括るように一言。
「茶番も終わったみたいなのでそろそろ行きましょうか。本当に遅刻してしまいますので」
4人に続いて歩き出しながら、クロウィルも同じようにつぶやいた。
「ほんと、何の茶番だったのかな……」
まったくその通りだ。他の面々と同様にモヤモヤし始めたヒューゲルだったが、この場では一旦保留にして皆と共に歩き出した。
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