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「先生、下ろしてください」
保健室に向かう道すがら、リュミエールはミロスに背負ってもらっていた――というより引きずられていた。なにぶん20センチ近く身長差があるため、爪先で地面を削っていたとしてもそれは致し方ないと思う。
「わたしは……このままでもいいよ~……?」
明らかに苦しそうだった。
息が途切れ途切れだったが、ミロスはリュミエールを下ろそうとはしなかった。
「ごめんねリュミちゃ~ん……」
その代わり、ミロスはゆっくりと足を止めた。
「なんで先生が謝るんですか」
「だって~……、リュミちゃんのこと何も知らなかったから~……」
「いや、それを言うなら……」
──謝るのはあたしの方ですよ。
言いかけてリュミエールは不意に言葉を濁した。
謝る。謝罪する。頭を下げる。
心の中で自分自身に対して舌打ちした。加えて、心の中で自分の心を殴りつける。
情けない。未だに“ごめんなさい”の一言ですら言えないなんて。
謝るべきなのはミロスじゃない。彼女に責任はないのだから。
むしろ、あるとすればそれは自分の方だろうと自覚はしている。彼女の計画を頓挫させてしまったようなものなのだから。
それは彼、狼人族の青年に対してもそうだ。
今思い返してみれば、何度も助けてもらっておきながら、その度にお礼の言葉も言わず逆に彼を殴ってしまっていたような気がする。
強がっていた。そう言われれば肯定はしたくないが、かといってきっぱりと否定するだけの根拠があるわけでもない。
自分は弱い。その自覚もあった……つもりだ。
だからこそ、強くなるために何年もかけて自主鍛錬を続けてきたが、鍛えられたのは槍術といった技術面や、体力などといった身体的な方面だけだったようだ。ここにきて気づかされた、気づかされてしまった。精神的な方面では少しも成長していなかったことに。
「……みちゃん、リュミちゃん」
「はいぃっ!?」
気づけば、ミロスが視線だけをこちらに向けていた。
「えっと……なんですか?」
「ほんとにだいじょうぶ~? 今なんだかものすごく深刻そうな顔してたよ~?」
「………………」
まただ、と思った時にはミロスの視線から逃げるように目を逸らしてしまっていた。
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