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木村の忠告通り、さっさと帰ることにした俺は---
道に、迷っていた。
土地勘が無い場所ではないし、むしろ家のすぐ近くだというのに、道に迷ったのだ。
どこをどう行けば良いのか見当もつかない。さっぱり分からないのだ。
そして、強烈な違和感。
違和感を感じる癖に、それが全くどこから来ているのか分からない。
分からないこと尽くしでうんざりだが、実際何も分からないのだからしょうがない。どうしようもない。
いや、ひとつだけ分かる事がある。さっきからずっと聞こえている鬱陶しい声が、朝からの幻聴だということだ。
「全くー返事くらい知ろってのこのあほー。なーに?そんなに私の事が嫌い?」
ああ、嫌いだね。何なんだこれは。説明しろ、殺すってなんだったんだ。
「確かに君には理解出来ない現象尽くしかもしれないけどさー、漫画くらい読んだ事あるだろー?それと似たようなもんさー」
「”人払い”だよ、私が今やってんのは所謂そういうこと。お札はって回って、大変だったんだよー。」
チロリ、と唇を舐めた音がした。
「色々邪魔も入ったし。服も汚れたし。白いパーカーが台無しだよー」
「あ、君が道に迷ってんのは私の能力ね。”化かす”能力」
能力。
「そう、能力。さっきは使わなかったけど。大したこと無かったし」
さっきって何だ。大したこと無いって何だ。
彼女の声は俺の疑問を無視してつづける。(声の高さ的に彼女でいいだろう)
「で、最後の殺すって何だ、についてなんだけど、」
・・・・・・・・
息遣いが聞こえた。艶かしい、息遣いが。後ろから。
「それについてはね、」
振り向けない。体が動かない。
「身を持って、」
俺の首筋に、舌が這う。
「体感してもらうから、ね?」
這う。
「じゃ、君の友人によろしく」
最期に見たのは、俺の首の無い体に抱き着いている女性の、
真っ赤な牙だった。
……やっぱ、今日はついてない。
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