1章

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 木村の忠告通り、さっさと帰ることにした俺は---  道に、迷っていた。  土地勘が無い場所ではないし、むしろ家のすぐ近くだというのに、道に迷ったのだ。  どこをどう行けば良いのか見当もつかない。さっぱり分からないのだ。  そして、強烈な違和感。  違和感を感じる癖に、それが全くどこから来ているのか分からない。  分からないこと尽くしでうんざりだが、実際何も分からないのだからしょうがない。どうしようもない。  いや、ひとつだけ分かる事がある。さっきからずっと聞こえている鬱陶しい声が、朝からの幻聴だということだ。 「全くー返事くらい知ろってのこのあほー。なーに?そんなに私の事が嫌い?」 ああ、嫌いだね。何なんだこれは。説明しろ、殺すってなんだったんだ。 「確かに君には理解出来ない現象尽くしかもしれないけどさー、漫画くらい読んだ事あるだろー?それと似たようなもんさー」 「”人払い”だよ、私が今やってんのは所謂そういうこと。お札はって回って、大変だったんだよー。」  チロリ、と唇を舐めた音がした。 「色々邪魔も入ったし。服も汚れたし。白いパーカーが台無しだよー」 「あ、君が道に迷ってんのは私の能力ね。”化かす”能力」  能力。 「そう、能力。さっきは使わなかったけど。大したこと無かったし」  さっきって何だ。大したこと無いって何だ。  彼女の声は俺の疑問を無視してつづける。(声の高さ的に彼女でいいだろう) 「で、最後の殺すって何だ、についてなんだけど、」  ・・・・・・・・  息遣いが聞こえた。艶かしい、息遣いが。後ろから。 「それについてはね、」  振り向けない。体が動かない。 「身を持って、」  俺の首筋に、舌が這う。 「体感してもらうから、ね?」  這う。 「じゃ、君の友人によろしく」  最期に見たのは、俺の首の無い体に抱き着いている女性の、 真っ赤な牙だった。  ……やっぱ、今日はついてない。
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