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口のなか一杯に広がる甘味。
自然と笑顔がこぼれてくる。
そして
それから由樹と他愛ない会話を楽しんで(団子の甘味も楽しんで)
面会時間の終わりが近づいてきた。
「よし…、じゃあ俺、そろそろ帰るわ。
明日は試合のあと打ち上げあるらしいから来れないけど…なんかあったらすぐ電話しろよ?」
「うん。由樹、頑張ってね。」
明日は由樹の剣道の試合。
こんな体でなければ、見に行けるのだけど…
それは仕方のないこと。
「当たり前!いい報告待ってろよ?」
いつもと同じ、私を安心させる 太陽みたいな笑顔。
「…ん。いってらっしゃい。」
「…いってきます。」
「あ、待って。」
たった今思い出したかのように私は帰ろうとした由樹の足をとめる。
ほんとは、いつ渡そうか、ずっと悩んでた。
「手、出して。
…はい。こんなことしかできないから。
形はイビツかもしれないけど。」
由樹の手に少し乱暴にそれを乗せる。
「これ…お守り??」
「うん。」
「俺が勝てますようにってこと?」
「…うん。」
「ほたるが…作ったの?」
「……うん。」
「ぶふっ!…っとイビツだなっ!」
お守りを握りしめてひーひーと苦しそうに笑う由樹。
「だ、だから、イビツだけどって言ったでしょ!」
すごくむかつく。
涙まで浮かべちゃって!
「…ぶっ、ごめんて。そんなに怒るなよ…」
笑い堪えるのに必死そう。
しばらくして、落ち着いたのか
機嫌を悪くした私に
「お前のお守り、明日忘れずにつけてくよ。」
そう言って由樹は手をヒラヒラと降りながら 今度こそ病室を出ていった。
…静寂。
私は、
この瞬間が大嫌い。
―――
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