憂い

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―― 真夜中、 ふと目が覚めた。 腕に打たれているはずの点滴がはずされていて、 あれからかなりの時間がたっていることがわかる。 発作も落ち着いている。 それもこれも、薬の効果だけれど。 『可哀想』 その言葉が頭の中にこびりついて離れない。 「…うっ…」 『兄』という単語を聞いて、気持ちが悪い。 吐き気さえ込み上げてくる。 …少し風に当たりたいな。 そろりと、ベッドから降りる。 ナースステーションの前さえ通らなければ、看護師たちにばれることはない。 静寂に包まれた真夜中の病院の廊下 自分の足音が、嫌なほど響いて 不気味さを感じさせる。 私は極力足音を立てないよう、 忍び足で 屋上へとつづく階段へ向かう。
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