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平原で幼い子供を見つけた。
偶然近くにいたアスラと人間の軍隊を返り討ちにした際に、将軍らしき男の鎖に繋がれていたのを見つけたのだ。
少女だった。
少女は私がその男をバラバラに引き裂き、飛び散った血を身体中に浴びながらも、しかし悲しそうな目を私に向けて、言った。
『可哀想だね』
そう言った。
男と同じようにバラバラにしてやることも出来たが、……いつもなら迷うことなくそうするのだけど。
あろうことかその少女は、今こうして男の懐にあった手帳に今日の出来事を記している私の前で、静かに寝息をたてている。
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「……おい」
「なんだ?」
右横に立つ男が私に口を開いた。
珍しく空に浮かんだ二つの月がどちらとも丸く輝いている夜。
まるで暗闇を覗きこむ双眸のようなそれらから放たれる、淡いなどとは決して言えない月光が妙に鬱陶しかった。
周りは腰まである背の高い草が地面を覆っていて、見渡す限りその景色が続いている。
男は心底面倒くさそうに首を鳴らしてから、つり上がった目を前方に向けたまま続ける。
「てめえと共同戦線張るなんざ反吐がでるが、あいつら始末すんのは付き合ってやる。……そのあとは俺の勝手だ、口出しはさせねえぞ」
呑気に細身な袴のポケットに手を突っ込んでいる男の声は、顔の鼻までを完全に隠してしまっている襟高の衣服によってくぐもっていた。
そうか。これは確かに共闘ということになるのだろう。
私を嫌うこの男とそんな日が来るとは夢にも思わなかったが、案外あっけなく形になったものだ。
北へ向かう私を追ってくる邪魔者たちの始末をしてくれるというなら、余計な手間が省ける。
「好きにしたらいい。私もここに居残るつもりはないからな」
そう、早く向かわねば。北へ。
「……なら、とっとと済ますぞ」
目の前の大軍が一つ角笛を吹いた。
それに続いて何個もの角笛を一斉に鳴らしだす。
私たちへの威嚇のつもりなのだろう。
重低音がとても耳障りだ。
無音とすら言える平原に、その音はどこまでも遠く響き、人間の軍がこちらへと歩を進めるたびにその足が大地を揺らす。
あまり訓練されていないらしい。
隊列が崩れてしまっていて見るに耐えない進軍になっている。
あれではまるでアリの群れだな。
「数は一万五千くらいか」
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