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おおっと、お待たせしてしまったね。
少し私用がたて込んでいて。申し訳ない。
まあ、そんなに大した用事でもないんだが。いちいちるさい人がいてさ。
いやいや、君にこんなことを言ってもしょうがないな、ははは、失礼失礼。
さて、それでは。ごほん。
君が私の店を手伝ってくれるっていう物好きな子だね。
ぼくの名前はカク。
見ての通りこのぼろっちい書店の店主をやってる。
はは、汚ないなって思ったでしょ?
いやいや、別にいいんだよ。本当のことなんだから。
こんなに本が無造作に積まれてる本屋なんてここぐらいだろうしね。
立地もこんな林の奥なもんだから滅多に人はこないし、寂しいもんだよ。
好きなことをずっとしてられるっていうのは、結構気に入ってるけど。
趣味は読書、古書修復に未解読文字の解読。
特技は速読と読心術を少々。好きなものは本と不味い珈琲。
と、至って普通の二八歳。
とにかく本が好きでね。好きなことを仕事にしたらこうなったってわけさ。
暇な時はよく……忙しくなったことなんてないけど、まあ、店の売り物を読んでる。
ご先祖に外国の人が混ざってるってことは、家系図を見た限りではいないから多分生粋の日本人。
ということは必然的に両親も共に生粋の日本人ということになる。
父は自分が開いた宗教の教祖をしていて、母は母で町の道端で占い師紛いのことをしてる、らしい。
ああ、もちろん両親は離婚してるから。
ぼくもあまりよく知らないけど、仲が悪かったみたいだね。
いやあ、しかし助かるよ。
いつも手伝いをしてくれてる子がいきなり自分を探しに行くなんて言うから。
ふふ、さすがに笑っちゃったよ。今どき珍しい、いい子だったんだけど。
ああこりゃまた失礼、話が逸れたね。
本題に入ろう。
見ればわかると思うけどこの書店の本たちは整頓されていない。ただ積まれているだけだ。
君には今日から、この店のうず高く積まれ、天井につかんばかりの……いや、もうついてるか。
確かに古くて店も大きくないし、かなり埃っぽいけど自分では気に入ってるんだ。
こんな素晴らしい空間はそうないよ。君も少しすればわかるさ。
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