カク

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今日はもう店じまいだ。 君も仕事は終わり。 ほら、エプロンもハンカチもとって。 はたきはその辺に置いておいて。 さてそれじゃ。 ん? 違う違う。帰れなんて言ってない。 ここからは少しぼくに付き合ってもらうよ。 そんな顔しないで。 君もたぶん気に入ると思うから。 ぼくの書斎に案内しよう。 こっちだ。 おっとその前に。 珈琲を淹れてくる。 君も飲むだろう? 続きはそれからにしよう。 ▲▽▲ お待たせ。 淹れたての珈琲だ。どうぞ召し上がって。 さて。 いきなりのことでぼくが一体なにをしたいのかわからないよね。 何も伝えていないのだから当然だ。 だからこれから話そうじゃないか。 と言ってもだ。 別に大したことじゃない。 さっきも言ったがぼくに付き合ってもらいたいんだよ。 ぼくのちょっとした暇潰しに。 ぼくが読心術をかじっているのは、言ったよね。 でも、ぼくのは一般的な動作や行動から読み取るのとは違うんだ。 文字どおり心を読むのさ。この目でね。 相手の心を文字として読めるのが、ぼくの読心術。 いろいろと条件が厳しいんだけど、その条件が揃えばぼくは他人の心が手に取るようにわかる。 あ、でも今の君の心は読まなくてもわかるよ。 顔におもいっきり出てる。 嘘だと思ってるでしょ? うん、正直でいいよ。とてもいい。 正直者が馬鹿を見るこの時代にこそ君のような正直者が必要だとぼくは思うわけなんだ。 これからもそんな君でいてくれることをぼくは切に願うよ。 っと脱線したね。失敬。 慣れてるから大丈夫。大抵こんな話は誰も信じないさ。 他人の心が読めるなんて、ね。 だから、滅多にこの話は人にはしないんだ。 変な人って思われるからね。 それにもしも信じてもらえたとして、自分の心を読まれてるかもしれないなんて気持ちのいいことじゃない。 みんな離れて行ってしまうよ。 まあ、そんなことはどうでもいいんだ、気にしないで。 そもそもそんなに他人との交流を求めているたちでもない。 最低限の関係を最低限のレベルで続けられればぼくとしては何も問題はない。 君のように、たまにこうやって私に付き合ってくれる者がいればね。 なんで話したのか? なんとなくさ。君はたぶんそんなことを気にするような人間じゃないって。 なんとなく、そんな感じがしたんだよ。
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