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始まりといえばいつだっただろうか。
始まってしまったのはいつだっただろうか。
自分の感情を抑えていられなくなってしまって、もう随分とたつ。
あらゆる感情を失いかけていた私の欠損した頭の中で、その感情だけは消えることはなく、むしろ時が過ぎるにつれて理由もなく大きくなる。
こんなことになってしまったのはどこが始まりだったのか。
私の存在意義を理解し、その場にいた人間を八つ裂きにしたときからか。
私に石を投げた男の住んでいた村を一つ、消したときだったか。
いや、案外、この世に生を受けてしまったときなのかもしれない。
私を、世界を終わらせる『魔人』という存在として生んだ、この世界を憎むようになったのは。
思い出せないくらい前のことなのか。
それとも覚えていられないほどに、私の憎しみが大きくなってしまったのか。
もうどちらでも同じことではあるが。
真っ黒な記憶を無作為に掘り起こしても、それは私に憎しみの理由を思い出させるだけ。
そんなことばかりは覚えている。
いや、それしかなかいからだ。
特異な存在である小さな私を囲んでいた迫害と暴力。
身につけたぼろ布は泥にまみれ、アザだらけの汚れた体と、そして血で赤く染まった視界。
私は泣くことでそれらを洗い流すことしかできなかった。
力の使い方を知らなかった私に為す術などありはしなかったのだから。
毎日を恐怖に怯え、恨みながら物陰に隠れていた。
日の光を見なくなり、生きるために人の法を破り、生き残るために人の命を奪った。
その行為に及ぶのに、なんの躊躇いも罪悪感も感じなかった。
……人間でないのなら、そんなもの、はなから関係なかったのだ。
そんな、暗闇に生きる中で。
とにかく、なにもかもが憎かった。
目に写りこむ景色も、耳に入ってくる音色も。
どんなにそれが綺麗でも。美しくても。
醜くても、汚くても、どちらでも。
憎かった。
臭いも、感触も、空気も、人も、すべてが。
だから。
壊してやろうと思った。
すべてが憎かったから。
壊してやろうと思った。
私にはその力があるから。
壊し尽くしてやろうと思った。
それが『魔人』という存在の在り方だから。
でも。
▲▽▲
びっくりしたでしょ。
それが文字に込められた、この日記の著者の感情、心。
といっても、この日記は複数人の者から書かれているものだ。
その一人の、それもごくごく一部だけだが、垣間見えただろう?
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