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女性は微かな笑みを浮かべながら、坂道をゆっくりと下りてくる。対して友樹の方は、鋭い視線を彼女に送り続ける。
何も語らず、ただ視線のみを交わらせる二人。
やがて女性は友樹の横を通り過ぎて足を止める。しかしその視線は、彼に向けられたままである。
「あなたが過原 友樹?」
「……」
問いに答えず、じっと見つめるだけの彼を嘲笑うように、彼女は妖しげな笑みを浮かべる。
「酷いなぁ。答えてくれないんだ」
「そうと知っててそんな質問をする奴に、わざわざ教えてやる義理は無いよ」
「ふふ……意地悪ね。噂通り」
「噂、ねぇ。出所は聞きたくないな」
漸く笑みを浮かべる友樹。しかし、その瞳は全く笑っていなかった。
「あんた誰だ?」
「あらぁ。自分は答えてくれない癖に質問するんだ?」
「……。いや、やっぱりいい。興味ないし」
急に不機嫌そうな態度になり、彼女の横を通り過ぎて坂道を下る友樹。その背中に、女性が勝ち誇ったような視線を向ける。
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