序章

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いつもより少し遅いせいか、帰りの電車はガラガラだった。 座席一列貸し切り状態の真ん中に祐希、一人分空けて朱音が座っている。 祐希はスマートフォンをいじっていた。 お気に入りボタンからジャンプするページはオカルト掲示板。 彼は都市伝説や世界の不思議現象に強い興味を持っている。 「メールかな?」 朱音に声をかけられ、祐希は一瞬顔を上げる。 「いや。さっきの夢がちょっと気になってな」 自分には存在しない姉の夢。 同じような体験談がないだろうか、と祐希は考えていた。 もしかしたらそこから不思議な現象に巻き込まれたりして、という期待もある。 「どんな夢だったの?」 「ガキのころ俺の姉ちゃんと遊んでる夢」 「そんなハズないよ。だってユウちゃん一人っ子じゃん!」 だから調べてんだよ、と朱音に返した辺りで似たような話はどうやらないらしいことが判明。 「それはきっとあれに違いない」 何やら腕組みして頷いている朱音。 「なんだよ、あれって」 よくぞ聞いた、と言わん勢いで朱音回答。 「あたしみたいなお姉ちゃんが欲しかった、てことでしょ」 雰囲気は朱音に似ていないこともなかった。 特に、ミドルキックは完全にシンクロしていた。 ただ、それが自分の深層心理だと認めるわけにはいかない。 「それは絶対ない」 「えー?」 朱音がなぜ不満げなのか、祐希には全く理解不能だ。 「だって頼りにならん姉ちゃんとか面倒だろ」 「じゃあ頑張る!」 「何を頑張るんだよ」 「むむっ」 朱音はなにやら悩みだした。 本気で悩んでいた。 「あたし、何を頑張ればいいの?」 すがるような朱音に祐希はため息をつく。 「知らん」
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