序章

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家に帰り着いてからも祐希は夢のことが気になってしょうがなかった。 ちょうど母親がキッチンで夕飯の支度中だったので、さりげなく聞いてみることにした。 「母ちゃん、すっげぇ昔俺に姉貴とかいた?」 細さがかなりまちまちな、キャベツの千切りと思しきものを切っている手を休めもせずに母は答える。 「ないない。父ちゃんの稼ぎじゃアンタ一人でギリギリアウトよ」 「アウトかよ。……流産とかもなし?」 「なし!」 「ふーん」 そういえば、夢の中でも姉という女性の名前は知らなかった。 実の母親ほど信頼できる証人は他にいないだろう。料理の腕はこの件とは無関係。 つまり、単なる夢だったと結論づけることにした。 「やぁ石原くん。清々しい朝だね」 翌日の朝。 祐希の前の席に、後ろ向きに座った少年の名は藤川一真。 多少ジャンルは違えど、祐希とは近い趣味を持つためクラスの中では一番の親友と呼べる。 「なんだよ石原くんて。気持ち悪いな」 祐希の態度は素っ気ない。 普段『ユウキ』と呼び捨てにする一真が名字に君づけなのを訝しがってるからだろう。 「うん。じゃあユウキに頼みがある」 「なにさ?」 一瞬真剣な表情を見せる一真。 「俺はよさ気なスポット探してくるから、素敵なメンバーを頼む」 「……いろいろと言葉が足りてねぇ」 祐希の指摘した足りてねぇ部分を完全に補足すると以下のようになる。 来週から夏休み。 青春真っ盛りの高二の夏に女っ気がないのは寂しい。 そこで、男女ペアで肝試しをやろう。 一真が心霊スポットを見つけてくる。祐希は女の子を誘う役。 肝試しで頼りになるところを見せれば吊橋効果もあり、晴れてカップル成立……しなくても思い出くらいは残せる、という作戦。 「俺が心霊スポット探しのほうがいいだろ」 事実、祐希はオカルトマニアなだけあって県内の心霊スポットならほぼ全て熟知していた。 怖さのレベルや距離も含めて最適な場所を選択できる自信もある。
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