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 西本願寺の堂宇にある新選組屯所の自室で、一は布団にもぐり葛藤していた。  もう直に起床時間とのなるのだが、暖かな布団から出るのが惜しく、起きようか起きまいか自分の中の甘えと闘っているのだ。  京に来て五年以上が経つが、未だ京の冬の寒さにはなれない。   何時までも寝床の温かさを貪りたいと思ってしまう。  モソモソと布団の中に居ると、ドタドタと廊下を走る足音がして、一の部屋の襖が勢い良く開かれた。  一は咄嗟に起き上がると、枕元に置いてあった愛刀・池田鬼神丸を抜き放ち、侵入者へとその切先を向ける。 「一君、朝からそれは無いですよ」 「総司、開ける時は声をかけろ。賊であった場合の用心だ許せ」  総司は頬をプッと膨らませると、足音で分かって居るくせにと拗ねた表情を見せた。  その顔を見ると寝不足なのか、目が赤く充血している。  一は温もりを無くしてしまった布団を恨めしく思いながらその上に座り直し、羽織を羽織ると総司に座るように言う。 「総司、朝から何かあったのだろう。何だ?」  一がそう言うと、飛び跳ねるようにして一との間合いを詰めて、満面の笑みを浮かべる。 「あの、生まれたんです」 「生まれたのか。で、どちらも大丈夫なのか?」  総司は嬉しそうに頷くと、一の手を取り、上下に大きく振りながら言う。 「はい、母子ともに元気です。それに、とても可愛い女の子なんです」 「そうか、良かったな総司。おめでとう、秩さんにもそう伝えてくれるか」  うん、うんと頷き、赤い目に涙を浮かべて喜ぶ総司に、目覚めの悪さも忘れて一は表情を柔らかくする。  総司にとって、初めての子であり、求めていた血の繋がる家族の誕生であった。  慶応二年 十一月五日の事である。
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