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 暫くうち合っていれば、元々それなりに腕の違いがある一と平助だ。  一の突きが平助の鳩尾辺りに決まった。  苦しげに蹲った平助だったが、数瞬後にはユラリと立ち上がり笑って見せる。  だが、一にはその平助の笑みが薄ら寒い気がした。 「やっぱり一君は強いね。パッツァンや総司にも劣らないや」  平助は一と同じ年とは思えない程の童顔を崩しながら言う。 ー何か裏があると一の本能が一に話し掛ける。 「そうでもない。総司の三段突きはもっと早い」 「ハハ、そうかもしれないけど、一君は一太刀の重さが違うよ。腕が痺れちゃった」  努めて明るく振る舞う平助だったが、昔を知る一には不自然にしか感じられなかった。  そして、今日の立合いが今後の厄介毎に繋がっているとは、一は知る由も無かった。  総司の子供が生まれて一月程が過ぎた頃、一は相生を連れて新選組医科診療所の浜崎邸を訪ねていた。  母子共に健康であると聞いていたが、時折咳き込む石井秩の様子が気になった。 「あまり長居をしても、石井さんも大変だろう。これで失礼する」  相生の縫ったオシメを有難うと言って、眺めて居た秩がすみませんと頭を下げる。  その横で、目に入れても痛くない様子で、秩の娘・ゆきを膝に抱いて、実の娘・キョウを見ていた総司も腰を上げる。 「一君、私も帰ります。今日は稽古の当番なんですよ」 「おい、稽古の時間は直ぐだぞ。サボると副長が五月蠅いぞ」  そうなんですよと、悪びれた風も無く笑うと、秩と娘達にまた来ますと言って腰に刀を挿した。  連れ立って浜崎邸を出ると、総司の顔が僅かに曇る。  それはここ数日、娘の誕生を喜んでいた総司からは思いもしない表情であった。 「総司、どうしたんだ?」  一の問いに総司は力なく笑って見せると、言葉を選ぶように話し出す。 「実は、キョウが産まれた報告を近藤さんにした時ですが・・・
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