5/27
190人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
 総司は娘の誕生を知らせる為、近藤の部屋に来ていた。  朝早い時間ではあったが、嬉しさと昔からの仲だと言う事もあって、遠慮も無しに部屋に上がり込んだのだ。  近藤はと言えば、眠たげに目をしばたたかせ、欠伸を噛み殺していた。 「近藤さん、娘が産まれました。元気な可愛い子です」 「そうか、良かったな総司」  もっと喜んでくれるものと思って居た総司には、近藤の言葉は物足りない物だった。  近藤の胸の内を探ろうと、顔を覗き込むと 「娘ならば、跡目の心配は無いな・・・」  ポツリと呟かれた近藤の言葉が耳に入った。 「近藤さん、跡目の心配って・・・?」  世の中が落ち着き、平穏を取り戻した暁には、近藤は試衛館を総司に継がせるつもりだった。  谷の弟を養子に迎えはしたが、道場主が務まる程の剣の腕は無く。  まして天然理心流を学んだ事も無い、名を近藤周平に改めた昌武に継がせる事は出来ないと思って居た。  そうなれば、跡目を継ぐのは総司しかおらず。  何れ周平に生まれた子に、総司から試衛館を継がせれば良いと考えて居た。  だから、娘ならば跡目を巡り争う心配が無いといったのだった。 「総司、気にするな。何でも無い」  訝しげに思いながらも、総司は前々から考えて居た事を近藤に告げる。 「近藤さん、何れ私は石井秩さんと所帯を持ちたいと思って居ます。  無論、私達の役目が終わった後にですが・・・」  総司が窺うように近藤の顔を見ると、近藤は苦虫を潰したような顔をしていた。  暫くの沈黙の後、近藤からは総司を打ちのめすには十分な言葉が出た。 「俺は許さんぞ」 「どうしてですか!」  総司の悲鳴に近い声が、寒々とした近藤の部屋にこだました。  近藤はこめかみを指で押さえると、総司に幾分冷めた視線を投げかける。  総司にすれば、父とも慕う近藤にそのような視線を向けられ、至極居心地が悪く悲しみが溢れ返って来る。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!