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「総司、直ぐに江戸に帰る訳では無い。時間をかけて説得するしか無いだろう。  未だ、一月しか経っていない。諦めるのは早すぎる」  そうですねと力なく笑う総司が、一回り小さく感じた。  いくら大人になろうとも、近藤の前での総司は、家族と離れ試衛館に預けられた時のままの、行き場を無くした子供なのかもしれないと一は思う。  そう思えば、総司が不憫でならなかった。  慶応二年十二月五日、一橋慶喜が将軍職に就いた。  そしてその月の二十五日、会津藩並びに松平容保を信頼し、頼りとした孝明天皇が崩御された。  そしてこれを受けて、幼い明治天皇が即位される事となる。  この事が朝廷と会津藩の繋がりを徐々に変える事となっていく。  その明治天皇が即位される僅か八日前、日本は慶応三年の正月を迎えた。 「斉藤君、めでたい正月です。今夜あたり、島原にでも行きませんか?」  年も明け、相生の顔を見に行こうと思っていた一に、思い掛けない相手が声を掛けて来た。  土方とは違うが、瓜実顔の品の良い色男である。 「伊東参謀、島原も正月休みですが?」  一の言う事にゆるりと表情を緩ませると、伊東は問題ないと言う。  どうやら角屋には前もって話をつけてあるようだった。 「斉藤君は馴染みの芸妓は居ますか?」  今夜の宴に一の馴染みも呼んでやろうと言う事らしいが、生憎一には島原に馴染みは居ない。  そう伊東に告げると、ならばこちらで適当に呼んでおきましょうと、にこやかに微笑んで去って行く。
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