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一にすれば、伊東と正月から酒など飲みたくは無い。
しかし土方から伊東の動きを見張るようにと内々に命が下っている。
正月早々ついて居ないと溜息を漏らし、顔を見に行けなくなった相生に思いを馳せた。
そんな事をしていると新八が一を尋ねてくる。
部屋に招き入れ話を聞けば、新八も伊東に誘われたようだ。
考えれば伊東の行動も納得がいく。
試衛館派で近藤や土方に近いように見える新八だが、思想と言う物は持っていない。
まして非行五箇条以来、近藤との目に見えない溝は未だ修復されきって居ない。
そして、ガムシンと呼ばれる程の我武者羅な性格と剣術の腕を思えば、味方につければこれ程心強い者は居ない。
伊東が新選組の中で力を蓄えようとしているのは確実だった。
しかし、伊東が何をしようとしているのは迄は到底見当が付かない一だ。
伊東は何を考え、何をしようとしているのだ?
早い内に見極めなければならないと焦る気持ちが出て来る。
時間が経てば経つほど伊東に着く者が増える。
近藤より人当たりも良く知性的な伊東が、力を手に入れようと本腰入れて動き出せば隊士らが惹かれるのは時間の問題のような気がした。
角屋に新八と並んで到着すると、かなりの平隊士達も来ているようで、早速宴会が始まっていた。
伊東に促されるままに上座につき一も盃に口を付ける。
程無くして、芸妓達が座敷に現れ宴は賑やかになった。それと同時に、新八や伊東、一の隣にも芸妓達が付く。
伊東の隣には輪違屋の花香太夫、新八の横には亀屋の小常と馴染みの芸妓が座り、一の横には見た事も無い芸妓が座った。
「斉藤はん、よろしゅう。桔梗屋の相生どす」
名乗った女に驚き顔を見ればやはり知らない女である。
女はゆるりと口元を引き上げると、小声で話した。
「ウチは相生姉さんの跡継ぎどす。二代目相生やさかい、驚かんといてな。
今日は桔梗屋のお母さんのはからいどす。ゆっくり遊んでってや」
一は気を落ち着かせようと酒を一息に飲み干す。
二代目と名乗った相生は慣れた手つきで酒を盃に足すと、悪戯な笑顔を見せた。
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