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「母上。どうして悲しそうなお顔をなさるのですか。」
蕎候子は母である明参女ーメイサンジョーを心配そうに見上げた。
「蕎候子、よくお聞きなさい。此処は恐ろしいところです。強くおなりなさい。誰にも心を開かず、己のみを信じなさい。それが、此処で貴方が生き延びる唯一の方法です。貴方は人に利用されるのではなく利用する立場になりなさい。」
「どうしてですか。蕎には大好きな母上がいらっしゃいます。母上が蕎を守って下さる。そうでしょう。」
「ええ、母上は蕎を守ります。…たとえ側に居られなくとも。」
明参女は何故かまた悲しい顔を見せた。
「母上?」
「いいえ、何でもありません。さあ、もうお休みなさい。」
「はい、母上、お休みなさい。」
「…蕎。」
「はい。」
「必ず皇帝におなりなさい。」
「はい、蕎は母上の願いは何でも叶えます。蕎はこの世で一番母上が好きです。」
母に違和感を覚えつつも笑顔を向けた。
「母上は蕎が息子で幸せ者です。母上も蕎が一番好きだわ。」
母は笑顔を見せた。
安心して去ってゆく候子の後ろ姿を見ながら参女は涙をながしていた。
「母を許して下さい。貴方を守るにはこれしかないのです。どうか生き残って。蕎ー。」
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