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「……そう」
あたしの想いとは相反して温度の低い抑揚のない飯島くんの返事。
伏せた目がお人形さんみたいに長めのまつげの陰に隠れた。
その憂いを帯びた瞳に不安な気持ちがせり上がってきて、念を押すように呟く。
「……嘘じゃ、ないです」
「分かってるよ」
飯島くんは即答でそう言ってさらに続けた。
「朝比奈さんが、こんな上手に嘘をつけないことくらい知ってる」
「………」
飯島くんがゆっくりとソファの背もたれについた腕に顔を埋めた。
そしてそのまま拒絶するように、
「……でも、そういうとこが俺と朝比奈さんの決定的な差」
そう、短く小さな声で呟いた。
「朝比奈さんを見てれば、痛いほど伝わるよ。
普通の家庭で、それでもすごく大事にされて育ってきたこと」
そうでしょ? とでも問いかけるように腕の隙間から覗き見た飯島くんの目にコクリと頷く。
彼はそれに小さくため息を吐いた。
「俺は、そんなこと一度もない。
昔から営業の所にばかり駆り出されてきたから、貰ったのは基本的に俺になのか容姿になのかよく分からない恋愛もどきの愛情だけ。」
「………」
吐き捨てるような言い方に胸が軋むように痛んだ。
それに伴って自然に眉を寄せていたらしい。
飯島くんが困ったようにあたしを見た。
「ほら、またそういう顔をする」
「……だって…」
「……だから朝比奈さんは、優しいんだよ」
ムリヤリ笑うような顔が、寂しい。
それがものすごい距離感を与えているような気がして。
同じソファに座って、あるのは一人分座れるか座れないかの距離でしかないのに、ここにまるでガラスの壁でもあるかのように遠く感じた。
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