09.*偽悪*

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「……まぁ、否定はしないけどね」 沈黙を割るように、飯島くんは落ち着いた感じでそう言った。 その声が酷く胸に突き刺さる。 それがイヤで、ムリに言葉を出した。 「……っあ、あの、あたし。 ほ、保健室行きますっ」 「………え?」 「あ、頭痛いしっ……、だからっ…」 「………」 飯島くんが真顔であたしを見るから、それ以上言葉が続かなくて、苦笑いしながらなんとか言葉を紡ぐ。 ホントは、保健室なんか行くほど大袈裟なものじゃない。 赤くなってるかもしれないけど、精々ミニたんこぶさんがいらっしゃる程度。 冷やさなくてもきっと平気。 分かっている。 だけど、 「……あ、愛咲ちゃんっ!」 「……は、はい」 あたしの妙な気迫に押されたように、愛咲ちゃんがきゅっと唇を結んであたしを見た。 「い、飯島くんは、そんな人じゃ、ない、です」 「………」 「かっ、勘違いですからっ、それ」 それだけ言うと、ガタッと椅子を音を立てて立ち上がって 「せ、先生っ! 机に頭ぶつけたので、ほ、保健室行ってきます!」 と、逃げるように教室窓際から廊下にダッシュした。 「……先生。 俺、豆腐の角に頭ぶつけたので保健室行ってきます」 「……そのまま死んどけ、オマエ」 背中から、飯島くんと先生の妙な会話が追いかけてきたけど。
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