09.*偽悪*

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「…………」 「…………」 授業開始の鐘が鳴り響く廊下。 パタパタ、とあたしと飯島くんの上履きの音だけが響く。 あたしの少し後ろを歩く飯島くんが「ねぇ」とあたしに声をかけた。 「……自分から、机に頭ぶつけたなんて羞恥な事態を暴露するなんて変わった趣味だね、朝比奈さん」 「………」 誰のせいですか。 ムッとしながら 「豆腐よりはマシです」 と嫌味を返す。 「そーかもね」と飯島くんは声色一つ変えずそう言った。 「……でもね、朝比奈さん」 「はい」 「さっきの、ちょっと要らなかった」 「………」 パタ、と上履きの音が止まる。 振り返ると、飯島くんも止まったまま真っ直ぐこっちを見ていた。 「……さっきの、って。 保健室に来たことですか?」 「違うよ。 それは俺が朝比奈さんを保健室に連れていく名目でサボりたかっただけだから、結果的には正解」 「……」 だから、あたしは飯島くんに保健室を異様に勧められたのか。 結果はどうであれ、そんなことで駆り出された自分が悲しい。 はぁぁ、と深い息を吐くと、飯島くんはさらに続けた。 「……勘違いってアレ。 要らなかった」
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