09.*偽悪*

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「……要らない、って……」 困惑したまま飯島くんを見る。 飯島くんはあたしとの間に壁一枚挟んだかのような目であたしを見ていた。 「……い、飯島くんには迷惑だったってことですか…?」 「まあ、手短に言えば」 「だって、でも……っ!」 「嘘は言ってないでしょ。愛咲」 真顔でしれっと言う飯島くん。 腑に落ちないのも、悔しいのも全部あたしだけだって痛いほど伝わる。 ……だけど、でも。 「あっ、あたしが嫌なんです」 「……は?」 ぎゅっ、と俯いたまま制服の袖を握る。 絞り出すように口を開いた。 「好きな人のことっ……、誤解されるのは嫌なんです…っ!」 ぎゅっと袖を握り締める手が震えた。 足も痺れているような気がする。 大層なことを言うわりには、その半分も役に立てない。 それどころか、ただのお節介にもなってしまう。 好きだよって言うのに伝わらなくてダメダメで、最終的には自己嫌悪。 だけどそれでも、あたしは好きなんだ。 今あたしの目の前で、きっと飄々として立っているこの人が良いんだ。 この人じゃなきゃ、嫌なんだ。
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