09.*偽悪*

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「分かっては、いるんです。 早く諦めて欲しいって、飯島くんが思ってることくらい。 ウザいのも、重々承知です。 だけど、やっぱりヤだから。 飯島くんがそんな風に悪役受けるのは嫌だから。 だからせめてっ……」 「もういいよ」 ふわっ、と。 何かが舞い落ちるように、甘い香りが鼻を掠めた。 同時に身体中で飯島くんの体温を感じる。 背中に回る指先が一瞬、あたしの長い髪を梳いた。 窓から入る風があたしの髪とカーテンを揺らす。 飯島くんの腕に力が入った。 「い………、飯島っく……」 「口、開かないで」 「は、はいっ……」 硬直した身体。 どうしようもないほど熱い頬。 壊れそうなほど鳴る心臓。 ………あれ? でも、あたしを抱き締める胸板から聞こえる音は鼓動……? 「あ、あのっ…… 飯島くん……」 「開かないでって言ってんじゃん」 「でもあの……」 こんなこと、黙ってはいられない。 我慢できない。 「飯島くんもドキドキしてますか…?」
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