09.*偽悪*

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「……してないよ」 「うっ、嘘だっ!だって……」 「……朝比奈さんがドキドキし過ぎてるから、そんなこと思うんじゃないの?」 「………」 ひ、否定、できない……。 身体中、心臓みたいなあたしには飯島くんの鼓動なのか、あたしがもはや鼓動なのか分からない。 境界線すら見つからない。 「……今、ちょっと期待しました」 「……おこがましいね」 「す、すみません……」 ふは、と耳元で飯島くんが笑った。 その顔がみたいと心の底から思うけど、この抱擁は一秒でも長く続けていたいから、胸板を手で押したくはなくて。 心の中で妙な葛藤。 ………あぁ、どうしよう。 もうあたし、ずっとこのままがいい。 「好きです、飯島くん」 「………」 「世界で一番、大好きです」 心なしか、抱き締める腕の強さが強くなった気がした。 いや、あたしのバカな妄想かもしれないけれど。 それでもいい。 もう二度とこんなことはないのかもしれないなら、今はこの甘い夢に酔っていたい。
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