09.*偽悪*

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「……簡単に、言ってくれるよね。 ホントに」 「え?」 「あんたばっかり、ズルいよ、ホント」 抱き締める手が肩にかかって、ゆっくりと身体が離された。 それに顔をあげると、見えたのは甘い笑みなんかじゃない、いつものポーカーフェイス。 いつもと変わらない。 なのに何で、愛しさすら感じるほど憂いを帯びて見えるんだろう。 「……ずるいのは、飯島くんです。 いつも」 「え?」 俯いて、掠れそうな声で答えた。 飯島くんは不思議そうに小首を傾げて、あたしを上から見下ろす。 「全然簡単なんかじゃないのに、あぁ、愛しいな、好きだなって思わせるようなことばっかりする飯島くんの所為です」 「………」 「自覚ないから、天然なんですね」 ふっ、と可笑しくなって笑うと飯島くんの手があたしの背中に回って、ぐいっと思いきり引き寄せられた。 そのまま、苦しいほど抱き締められる。 「……天然、なんて。 あんただけには言われたくない」 はぁっ、と飯島くんは深呼吸をするように息を吐き出して、そう言った。
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